ドイツの大学院は「研究=仕事」?アーヘン工科大学で驚いた日本との5つの違い

ドイツ留学・海外生活

 日本の大学院を卒業後、社会人となりドイツへ渡った私が、実際に現地で感じた「研究スタイルの決定的な差」を解説します。

 将来、海外での研究やエンジニアを目指す方の参考になれば幸いです。下記にも筆者がドイツの研究室で研究をしていた際に感じた、研究室の規模、教授などの教員とその関係性、教授の秘書について、日本との違いを書きましたので、興味があればご参考にしてください。

 また、私自身の経験なので日本の研究室とドイツの研究室が必ずしも皆同じではないことです。

 これから書くことは私自身が所属していた研究室での体験を書いているので、他の研究室も全て当てはまるわけではないことをご承知おきください。

1. ドイツの博士課程は「学生」ではなく「給与をもらう労働者」

 私は博士課程の学生と一緒に仕事をしてきたこともあるし、私自身博士課程の学生として所属していたので、博士課程の学生についてが一番書くことのできる内容だと思っています。 

 詳細を書くと、膨大な長さになりそうなので核心だけを書いていきます。詳細は別の記事で書こうと思います。

 まず一番大きな違いは、アーヘン工科大学の博士課程の学生は毎月お給料をもらっているということです。

 彼らは教授の仕事つまり研究プロジェクトの一端を担っており、そこから給料が支払われています。

 詳しい金額は忘れてしまいましたが、生活するには困らない金額です。

 外国から家族づれで来ている学生もいましたし、前編でも書きましたが10年ほどチーフエンジニアをしている学生も子供がいたので、学生によって金額が異なる可能性が高いです。

 そしてお金をもらっている以上、成果を出さなければならない、まさに仕事をしているのです。

2.【衝撃】博士論文は「仕事の合間」に書くのがドイツ流の厳しさ

 そしてこの仕事は必ずしも博士課程の論文に繋がるとは限りません。自分の専門分野と異なる仕事の場合も多々あります。

 運よく自分の専門分野と合致し、与えられた仕事を通して得られた結果が博士論文に使用できることもあります。これは本当に運が良い方だと思いました。

 彼らは仕事をしながら、自分の博士論文のための研究を合間を見ながら行っていました。

 私はこのことを始めて学生から聞いたとき、その意味が理解できずに戸惑い、そして衝撃を受けていたことを今でも覚えています。

 日本の大学院生は基本的には自分の研究が主な仕事であり、企業との共同研究があったとしても自分の研究に支障がない程度にその研究を行うので、ドイツと日本の博士課程の学生が根本的に異なることを感じました。

 日本でもお給料を貰って研究をする学生がいますが、それはほんの一握り。日本学術振興会特別研究員に任命されることや、研究科が国の大きな研究プロジェクトに採用された時です。

3. 契約期間があること

 そもそも彼らは研究プロジェクトの仕事の対価としてお給料をもらっているため、契約期間が存在しています。そのプロジェクトが終わればもちろん給料はもらえません。

 別のプロジェクトの仕事をするのであれば、そこからお給料をもらうことになります。

 大抵の学生はプロジェクトが終わりお給料を貰えない状況になると、研究所から去ることなります。

 とはいえ彼らも博士論文を書くという目的もあるので、1,2年の短期間では成り立ちません。

 彼らが博士論文を書くために与えられた契約の期間は約5年です。

 日本で博士号を取得するにはだいたい約3年が必要とされていますが、アーヘン工科大学では約5年かかります。

 それは上記にも書いた通り、博士論文は仕事の合間に書かなければならないので、時間が必要になります。5年以上かかる人ももちろんいました。

 5年以上かかる人は大抵、契約が更新されて在籍期間が延び、お給料も貰えてました。

 また、別の研究所では博士論文を書く期間を3年というところも一部ありました。ですので、アーヘン工科大学全ての博士課程の学生が5年を費やして、博士論文を書くわけではないようです。

4. 修士課程も自律が求められる。半年間の海外インターンが必須

 アーヘン工科大学の修士課程の学生が修士号を取得するのに必要な期間は約2年です。これは日本と大体同じです。

 異なると感じたことは、修士号を取得して卒業するタイミングが皆バラバラということです。(これは博士課程の学生も同じと言えます。)

 アーヘン工科大学の修士号取得条件に、半年間海外の企業でインターンシップを参加することが課せられていました。

 日本では夏休みや春休み期間を利用してインターンシップに参加しますが、その期間も長くても1か月間です。

 アーヘン工科大学が学生に社会での経験を積ませることの重要性の意図を感じとれました。

 日本では就職活動で研究に集中できない期間がありますが、アーヘン工科大学の修士学生の場合、半年間のインターンシップによって、修士論文のための研究期間が制限されているように感じました。

 しかし、修士論文の研究はインターンシップや就職活動によって中断されるわけではなく、約半年の期間で集中して行っていました。

 また修士論文発表とインターンシップの順番は人それぞれ異なっていて、先に修士論文発表を行ってインターンシップに参加する学生もいれば、インターンシップに参加してから修士論文発表を行う学生もいました。

修士学生が教授の指導を受けることはほとんどない

 ここも日本とドイツで大きな違いを感じました。日本は教授もしくは准教授が研究テーマを決めて研究を進めますが、アーヘン工科大学では修士学生が教授の指導を受けることはほとんどないということです。

 修士学生の研究テーマは教授が決めるのではなく、自分が博士課程の学生と面談して、博士課程の学生の研究の一部を担う形で行っていました。教授は修士論文発表の時にその評価をするだけです。

修士学生もバイト代を貰っていた

 修士学生だけに限らず、学士学生もそうだったのですが、博士課程の学生の仕事を修士学生や学士学生がアシスタントとしてアルバイトをすることをよく目にしました。これは修士論文とはまた別です。

 仕事をしながら、知識を学んだり、実験を手順を覚えたりできて、さらにお金も貰えるなら学生にとっても有益だなと羨ましく思いました。

 金額は聞いたことはありませんが、博士課程の学生のように生活費を賄えるような額ではなく、お小遣い程度と思います。

5.「研究に上下はない」教授と対等に議論する理想的な関係性

 私が驚いたのは、定期的に行われていた博士課程の学生のセミナーでの教授と学生とのやりとり。

 研究の内容に関しての質疑応答や討論の際は教授も学生も関係なく、純粋に議論している姿に驚きました。もちろん学生も教授のリスペクトを持って討論しています。

 少なくとも私の経験では日本の教授と学生の関係は主従関係で、研究内容においてもそれは同じだと感じました。

 ですが、アーヘン工科大学で対等に討論しているのを見て、むしろこれが「あるべき姿」だなと感じました。「研究そのものに主従関係はない。」

 私がお世話になったアーヘン工科大学の教授も日本の教授と学生との関係性を聞いて驚いていたことを今でも覚えています。

学生が主体となって行う博士論文の研究

 日本の大学院では教授が学生に様々な指導をしながら、二人三脚のような関係で研究を進めていきますが、アーヘン工科大学では博士論文の内容に関する研究はほとんど学生主体で行わせ、時々内容を聞いてアドバイスをする程度です。

 学生主体で研究を行うというのは、本当に苦労します。私は社会人になってからそのような経験があるので、その苦労が分かります。(これはまた別の記事で書きたいと思います。)

 まだ研究経験のない学生が自分で考えて博士論文まで書くレベルの研究テーマを選定して、進めていくことは誰にでもできることではありません。

 ですので、2年ほど在籍した学生が博士論文の構想を教授に説明した際に、その内容が不十分と判断されて「クビ」になった学生がいることもあったそうです。

 この話を聞いて、アーヘン工科大学の博士課程の学生に求めるレベルの高さがうかがえるエピソードであると思えました。

 しかし「仕事」に関しての研究はプロジェクトの成功が左右されるので、教授も頻繁に学生へフォローをしていました。

ドイツの大学院で感じた異なる点はまだまだ続く

 ドイツのシステムは厳しい反面、学生をプロとして扱う文化がありました。自律して研究を進める力は、その後のエンジニア人生でも大きな糧になっていると言えます。

 今回この記事には書ききれなかったものもありますので、今後も書いていきたいと思います。

 ドイツの大学の良い点、悪い点を総合的に考えた時、私はドイツの大学へ留学することをお勧めしたいと思うので、そういった点も踏まえて書いていこうと思います。