コロナがきっかけでリモートワーク(在宅勤務を含む)を実施する企業が大幅に増加し、今やリモートワークができることを条件に転職先を探す人もいます。
パソコン一つあれば出来る仕事であればリモートワークが可能ですが、製品開発をする職種はリモートワーク可能かどうか疑問に思う方もいると思います。
「開発職は実機があるから、リモートなんて無理でしょ?」。
そう思われがちですが、実は工夫次第で大幅に業務効率を上げられます。コロナ禍を経て、半導体開発の最前線で何がリモート化され、何が現場に残ったのか。
実際に私が経験して感じた「出社と在宅のベストバランス」を解説します。
結論から言うと、リモートワークは可能ですが、完全リモートは不可能だと思います。やはり実験室でしかできない業務やクリーンルーム(埃が少ない部屋)での作業が必要な場合がどうしてもあるので、完全リモートはできないと思います。
ただパソコンがあれば可能な業務もありますので、それらの業務を行う分にはリモートが可能です。それでは私がリモートワークでオフィスでするよりもはかどった仕事について書きます。
思考の分断を防ぐ。リモートで「爆速」に進む5つの集中業務
ほとんど誰にも相談せずに自分ひとりでもくもくと進める業務がリモートワークに向いている業務だと思いました。オフィスにいると何かしら声をかけられたりするので、その際に作業を中断しなければならないことが非効率だと思うことはあります。
リモートだとよっぽどのことがない限り、同僚からの連絡はないので業務に集中することができます。下記に挙げた業務が集中して一気に行えると業務効率が上がるものになります。
1. 特許提案関連の書類作成
特許のアイディアを資料としてまとめたり、作成された自分の特許の内容を確認する作業は間違いがないようにしっかり行う必要があるので集中力が必要です。こういう作業は誰にも声をかけられない環境で一気にやってしまうことが良いです。
2. 他社の特許の確認、「一字一句」の確認が必要なデスクワーク
他社の特許の確認は自社の技術を他社が侵害していないか、またその逆はないかを確認するために行う作業です。
知的財産部門から他社の特許確認依頼がくるのですが、その量は毎月膨大な量で有識者で確認する特許を振り分けます。
自社、自部門には全く関係ない技術の特許もありますが、かなり自社製品に近い技術で際どい特許もあるので、気を引き締めて確認します。
3. 設計ルールの確認
新製品の開発に従事していると新技術を取り入れることが多く、またお客さんのニーズにより大きさや形状が既成品と異なることがあります。
そのような要素が含まれた開発中の新製品は設計ルールに従っているかどうかを確認する必要があります。
そもそも設計ルールを知らないと開発ができないので、しっかり確認する必要があります。
4. 試作品データの解析。静かな環境が統計ミスを防ぐ
試作品の測定(電気特性)データなどまとめます。特性をグラフ化し、良品率などの統計をまとめます。測定する試作品は1つではなく、何十個、多い時は何百個の試作品のデータをまとめる必要があるのでデータまとめを自動化するツールを用いてまとめますが、その結果どうなのかという判断をできるようにデータをまとめることが仕事です。
5. 契約書の確認
私の場合はお客さんとの契約、開発における秘密保持契約書の確認になります。お客さんは国内以外にも海外にもいますので、英語の契約書は専門用語が多くてかなり読むのが大変です。ただし契約書を専門に確認する部署もありますので、私は大まかに確認して上司に要約するという仕事をしています。
相談業務は「出社」が有利。リモートワークで見えたコミュニケーションの課題
資料作成はその内容によってリモートワークで集中して作成する方が効率的であったりしますが、同僚に質問、相談を多く必要とする資料作成はやはりオフィスで作成する方がスムーズに作成できます。
資料にはお客さん用のプレゼン資料、社内用に開発状況を説明する資料など多岐にわたります。
データまとめの資料はデータの置き場所さえ分かっていれば、リモートで作成できます。ただそのデータを見た時に疑問点が出てくることもあるので、その場合は関係者に確認の必要があります。
この確認の作業がオフィスにいる方が早く済む場合があるので、なかなかリモートで行おうとする人は多くいません。
ですがリモートでもメールや電話で確認も可能なので、確認するまで時間に余裕があればリモートで行いたい仕事です。
セキュリティとクラウド化。半導体エンジニアのリモート環境の裏側
以前は外部からファイルサーバーへのアクセスはセキュリティの面から制限されていたのですが、コロナになり、リモートワークの需要や世の中の動きもあり、ファイルサーバーはクラウドへ移行されインターネット環境があればアクセスが可能になりました。
なので基本的には私たち半導体エンジニアも実験、測定をする以外はリモートワークが可能になります。
ただ実際問題、必要な資料がクラウドに保存されていないケースもあり(本当はNG)、あの資料どこにある?って作成者に聞くことも珍しくはありません。
その場合作成した資料が作成者のパソコンに置きっぱなしの状態が99%ですが(パソコンにデータを置いておくのもセキュリティの面からNG)、これもファイルサーバーを使用していた時代、資料の上書きが失敗していて途中から作成し直しということもあったので、その名残もあってパソコンにデータを置きっぱなしにする人がいます。
リモートワークがもたらした「精神的余裕」
コロナが終息しつつある現在、職場ではリモートで仕事をする機会が少なくなり、リモートワーク推進の勢い弱くなっています。
リモートでも仕事は可能なので、あとはリモートワークを日常的に行える環境の構築をどうするか、その労力を割くかどうかは自分たち次第だとこれを書きながらしみじみ思います。
オフィスでもリモートでもいつも同じ場所で仕事をするとかえって集中できない場合があります。
こういう時にフレキシブルにどちらの場所でも仕事ができると、新鮮な気持ちになり集中力が上がって効率的に仕事ができるのにと個人的に思っています。
リモートワークの最大の利点は、通勤時間の削減だけではありません。特に子育て中や、ドイツ留学時代のような自律的な働き方を重視する人にとって、「自分のリズムで環境を選べる」ことは大きなモチベーションに繋がります。
実験が必要な日は現場で泥臭く作業し、考察や資料作成が必要な日は自宅で集中する。この「ハイブリッドな働き方」こそ、これからの半導体エンジニアが目指すべき姿だと感じています。
まとめ:場所を使い分ける「ハイブリッド型」がエンジニアの生産性を最大化する
半導体エンジニアという職種において、リモートワークは「できる・できない」の二択ではありません。大切なのは、「業務の性質に合わせて、最も生産性が上がる場所を自分で選択する」という視点です。
実際に体験して分かったのは、以下の使い分けがベストだということです。
- 出社すべき時:
- 実機測定
- クリーンルーム作業
- チームでのブレインストーミング
- 突発的なトラブル対応
- リモートが良い時:
- 特許資料の作成
- 膨大なデータの統計解析
- 英語契約書の読み込み
- 独創的なアイデア出し
以前の私は、「エンジニアは現場にいてナンボ」という固定観念に縛られていた部分もありました。しかし、静かな環境で一気に資料を仕上げる集中タイムと、現場で泥臭く試作品と向き合う時間のメリハリをつけることで、以前よりも仕事の質が上がったと実感しています。
また、私のように子育てをしながら働くエンジニアにとって、リモートワークという選択肢があることは、キャリアを継続する上での大きな「心の支え」にもなります。
今後、さらにクラウド化やシミュレーション技術が進歩すれば、現場に行かなければできない業務はさらに限定されていくでしょう。
「物理的な制約」と「クリエイティブな自由」をどうバランスさせるか。 変化の激しい半導体業界で自分らしく働き続けるために、これからも自分に合ったハイブリッドな働き方を模索していきたいと思います。


